日本学術振興会:科学研究費助成事業
研究期間 : 1999年 -2003年
代表者 : 田中 功; 小和田 善之; 小笠原 一禎; 西谷 滋人; 足立 裕彦
本班究のねらいは第一原理のみに基づいた量子化学計算により,構造欠陥や界面に基づいた損失のない場合の電池電圧や容量といった本質的な電池特性を算出し,原子配列や組成との関連性を理解することにある.
本年は,第2班との密接な連携のもとで,Mn系スピネルでの酸素欠損型欠陥のエネルギーを詳細に検討した.手法としては,構造最適化の精度が高く,かつ効率の良い平面波基底・擬ポテンシャル法を用いた.この酸素欠損型欠陥は,電池の寿命などの動的特性に大きな影響を持っていることが実験的に知られていたが,その原子論からのメカニズムは知られていなかった.本研究の結果,世界で初めて,Mn系スピネルでの酸素欠損型が酸素空孔ではなく,格子間金属によるものであることが判明した.これは,第2班での密度測定や原子拡散の実験結果と良く合致する.X線吸収スペクトルの解釈のための多電子系第一原理計算プログラムを開発し,第2班で得られた実験結果の解釈を行った.その結果,LiNiO2からLiのデインタカレーションに伴う電子構造変化は,従来考えられていたようなNiの酸化によるのではなく,酸化物イオンが酸化することによることが明らかにされた.さらに第1班,第2班との連携のもと,固体電解質中でのLiの拡散メカニズムを決定する素因子を理解するための計算を行った.
計算結果は,他班の実験グループと共有し,分光実験の結果の解釈や,新規材料探索に応用できる体制になっている.