マインドフルネス・トレーニングは,呼吸をアンカーとし,普段は注意が向けられない全身の微細な感覚にまで気づきを拡げながら,その意識の流れの中で生じては消えてゆく思考や感情に捕らわれない態度を養う技法である。これは,身体感覚の知覚閾値を下げ,次に思考や感情の反応閾値を上げる,というトップダウンの閾値変容の問題として捉え直すことができる。そこで本研究では,マインドフルネス技法の中核的な要素である観察と好奇心を独立に操作し,その態度が微弱な電流刺激に対する知覚閾値および回避閾値に与える影響を検討した。電流刺激は上昇法(0~256 µA on limit)によって提示し,実験参加者には,電流感覚の最小の知覚時(知覚閾値)と,それ以上は不快で電流を止めて回避したいと思った時点(回避閾値)でストップボタンを押下させた。これを観察の有無・好奇心の有無の組み合わせで4群を設けて実施したところ,マインドフルな観察態度に対応する観察あり・好奇心あり群で,知覚閾値が下がり,回避閾値が上昇した。[本発表は文部科学省科学研究費補助金・基盤研究(A)研究課題「痛みの心理生物学的基盤」に基づく成果報告として行う。]
3ステップ呼吸法は,多くのマインドフルネス瞑想と同様に,まず姿勢を整えることから始める。しかし,姿勢を整えることの効果を検討している研究は少ない。そこで本研究では,3ステップ呼吸法における姿勢の効果を検討する(尚,本研究は作年度の報告と同じ手続きを,異なる実験協力者に実施した報告である)。 実験協力者は133名(男性43名,女性90名,19.7±0.7歳)。6因子マインドフルネス尺度(前川・越川,2015;以下SFMS),多面的感情状態尺度短縮版(寺崎ら,1992;以下MMS)を使用。協力者をランダムに姿勢調整群,リラックス群,統制群に配置し,群(3群)と時点(pre vs. post)を独立変数,SFMS,MMSの各下位尺度得点を従属変数とした2要因の分散分析を行った。 昨年度とほぼ同様の結果が再現され,特に以下の2点が異なる対象においても再現されたのは重要である。SFMS尺度の「気づき」において,姿勢調整群のみでpost時点で有意に得点が増加しており,姿勢を整えることには「気づき」を高める効果があるといえる。他方「受容」では,姿勢群,リラックス群共にpost時点で有意に得点が増加しており,「受容」は姿勢よりもむしろ瞑れ自体の効果であると考えられる。