日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(S)
研究期間 : 2003年 -2007年
代表者 : 入江 正浩; 深港 豪; 松田 建児; 山口 忠承; 小畠 誠也; 河合 壮
究極の光メモリである「単一分子光メモリ」の実現をめざして、単一分子メモリに適した分子を設計・合成するとともに、単一分子の蛍光の光スイッチ計測を行い、単一分子光メモリの可能性を追究することを目的とした。光メモリ分子には、高効率光スイッチ機能、高い光耐久性、高い蛍光量子収率が要求される。更に重要なことは、単一分子の光反応の反応機構を明らかにすることである。具体的には次の成果を得た。
(1)蛍光発光部として蛍光量子収率が高いアントラセンあるいはペリレン誘導体をもちい、無蛍光性ジアリールエテンを光スイッチ部とする光メモリ分子を合成した。これらの分子では、分子内エネルギー移動により、蛍光強度が変化する。蛍光発光部と光スイッチ部とをアダマンチルスペーサーで分離することにより、高い蛍光量子収率と効率の良い光スイッチ機能を両立させることができた。分子内エネルギー移動により蛍光を消光する分子系では、読み出し破壊が起こる。この読み出し破壊を避けるため、分子内電子移動消光により蛍光強度が変化する光メモリ分子も設計・合成した。
(2)上記の分子を低濃度(10^<-11>M)に分子分散した種々の高分子フィルムを作製し、共焦点顕微鏡を用いて単一分子蛍光の光スイッチングを計測した。単一分子蛍光は、紫外光・可視光照射によりデジタル的に一段階でon/offスイッチすることが認められた。しかし、光スイッチの応答時間(量子収率に対応する)は一定でなく、変化することが観測された。
光反応の応答時間(on-timeあるいはoff-time)の分布を測定すると、ピークの現れることが認められた。ピークの現れる理由を理論的に検討し、励起状態、基底状態いずれにおいても複数の局所ミニマムが存在し、そのために、ピークが現れたと考察された。この現象は、単一分子蛍光計測ではじめて見出された現象であり、今後高分子媒体中での光反応に対して新しい見方を与えることになると思われる。